就農の動機

 長い間サラリーマンをしていると、いろいろな箇所が磨耗してくる。特に精神面の疲労と体力の衰えを感じる。管理職にでもなると自分で手を下し、作業をする機会が減ってくる。そうすると人間としての力の衰えを実感する。人間らしさを失っていく自分に気づく。

土と親しむこと、種を撒いて草刈をし、水をやり、虫を捕り、収穫をし来年に備えての準備をする。つまり野菜を育てることから新たな「人間力」が生まれるのである。そして、サラリーマンでは経験する機会が少ない継続性が求められるのである。しかも自然を相手に。知らず知らずのうちに人間が生きていく力が養われるのである。育てるという「楽しみ」を楽しみながら。

 なぜ千歳市駒里なのかと人に聞かれる。2004年の秋に農地を探して車を走らせていると「新規就農者募集」の看板を見つけ飛び込んだのが切っ掛けである。

がしかしそれはあくまでも切っ掛けである。本当の理由は農業委員会の面接試験での

回答にある。なぜ駒里で農業をしようと考えたのですか?という質問に次のように答えている。

「私は北海道で3代目である。祖父が石川県加賀市から約100年前に北前舟のルートに沿って樺太まで行き、その後北海道に来た。北海道では開拓地として苫小牧市に土地を得た。しかし、火山灰地であるうえに気候にも恵まれず農業を断念せざるを得なかった。そして、ウトナイ湖で淡水漁業に従事し家族を養った。父親は国鉄に勤務しながらその仕事を手伝い、そして私の今がある。ウトナイ湖には清流美々川が注いでいる。そしてその美々川の源流はここ駒里である。祖父の意思を継ぎぜひともこの地で農業者になりたい。これが祖父の夢でもあったはずだ。私こそ最もこの地にふさわしい人間である」と。

思わず農業委員の中から拍手が聞こえた。

 

 もう一つの動機として定年退職がある。数年後には必ず定年退職という人生の節目を迎える。 その後死ぬまで自分の力で生き抜くための手段が欲しい。自然相手の農業には、同じように見えて毎年まいとし新しい発見があるはずだ。そこに面白さを見つけることが出来そうである。

もうひとつ安全、安心な食べ物である。農薬も化学肥料も使わないで作物が育つのである。自分で作るほど確実なものはない。 

最後に応援してくれる家族・友人の存在は大きい。